どんより、という表現がぴったりだ。
くるくる回る扇風機の前に陣取っているフランスを見、笑みを堪えて日本は思う。
半ば伏せられた青い目は暑さのために焦点が危うい。

フランスは扇風機を独占しながら「あ〜」と声を震わせた。
お決まりのようなその仕草に袖を持ち上げ口元を覆う。
が、日本が笑みを零す間もなく、暑さに耐えかねうなだれた。
風に煽られ流れる髪は、まるで金色の波のよう。
収穫を控えた稲穂のようだと、こっそり思って苦笑する。

冷たい麦茶をコップに注ぎ、どうぞ、と日本は差し出した。
受け取ったそれを一気に飲み干し、フランスは深く息を吐く。
空になったコップの中で、カラン、と涼やかに氷が鳴いた。





「大丈夫ですか?」

彼の傍らに膝をつき、相手の顔を覗き込む。
頬は火照って赤く染まり、青い両目はどこか虚ろで。
緩やかに首を横に振る度、長めの金髪がゆらゆら揺れた。

「……あんまり」

言って大きな溜息を漏らす。
日本の夏を舐めてたわー。お兄さんもう倒れちゃいそう。
氷を口に放り込み、ガリガリと噛み砕きながらフランスは言った。

コップを頬に押し当てて、少しでも涼をと必死らしい。
団扇で風を送ってやりながら日本は薄い唇を開いた。

「フランスさんのお家は夏でも過ごしやすいんでしょうね」

私の家とは大違いでしょう? と僅かに首を傾げながら。

「冷房のない家があるくらいだからねぇ」

最近は熱波が怖いからって設置する人もいるみたいだけど。
温暖化の影響かねぇ、と嘆かわしげに天井を仰いだ。





ほんの束の間の静寂の中、ちりん、と風鈴の音だけが響く。
天井を仰いだ姿勢のままに、フランスは畳に寝転んだ。
薄く開いた青い両目に日本の姿を映し込む。

額に貼り付く髪を払おうと日本が白い腕を伸ばした。
ひんやりと冷たい指が触れる。

一筋二筋髪を掬われ、離れる前にその手を捕らえた。
ぱちりと瞬く日本を尻目に、引き寄せた手のひらに軽いキスを落とす。
たったそれだけで頬を染め、口をぱくぱくさせる様にフランスは柔な笑みを浮かべた。

可愛らしいなぁ、と内心で呟き、強張る指の先にもキスを。
真っ赤になった顔で、掴まれた手を取り返して。
僅かに潤んだ両の目で、フランスをきつく睨めつけた。

それが逆効果だと言うことに、日本は気付いていないらしい。





そこがまた可愛いんだけどね、とは、にやけ顔のフランスの言った台詞である。





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