「フランス? おまえ、いつまで待たせる」
気だよ、までは続かなかった。
消えてしまった言葉を飲んで、目を丸くして相手を見る。
青い両目は閉じられていて、頬杖ついて寝こけてた。
「……昼飯、作るって言ったじゃねぇか」
くる、と騒ぎ始めた腹の虫。
美味い昼食に対して大いに期待を抱いていた分、大層機嫌が悪そうだ。
叩き起こそうと近付く足音が、なぜだか控えめに床を叩く。
間抜けた顔を覗き込もうとして長い髪に阻まれた。
顔を支える腕を払えば、驚いて相手は起きるだろう。
そう考えてにやりと笑い、けれど実行する気は湧かなかった。
こっくりこっくり揺れる頭と、一拍遅れて流れる髪と。
余程深く眠っているのか、一向に起きる気配はない。
疲れて、いるんだろうか。
仕事が立て込んでいるのだろう。
どうにかこうにか片付けられたけどお兄さんくたびれちゃった慰めて!
とか何とか言っていたのを思い出す。
「疲れてんならちゃんと寝ろっての、馬鹿」
冷め切った紅茶のカップを取り上げ、フン、と鼻を鳴らして呟く。
起こさないよう踵を返して、そっとそっと扉を閉めた。
仕方がないから、今日の昼は俺が作ってやることにしよう。
せっかく俺が飯作ったってのに、なんて顔をしやがるんだよ!
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