ソファの背もたれに腕を乗せ、振り向き見遣った小さな背中。
昔はあんなに大きくて、頼もしく感じたものなのに。
ぼんやり思って薄く笑む。
もう何年も前の話だ。
「イギリス、君また縮んだかい?」
「縮んでねーよ馬鹿」
キッチンに立つ相手に問うと間髪入れずに返される。
その手が忙しなく働く様子に思考をゆるゆると巡らせた。
何を作っているんだろう。
味に関しては置いとくとしても、食えるものでありますように。
神にこっそり祈りを捧げて、ぬるい紅茶をぐいと呷った。
懐かしい味と香りを飲み干し、ふ、と鼻から息を吐く。
空のカップを弄び、物足りなさを持て余して。
離れた位置に佇む背中へ、イギリス、と声を掛けた。
なんだよ、とぶっきらぼうに、それでも歩み寄って来るから。
相手を手招き腕を取り、ぐい、と軽く引き寄せて。
「っな……に、すんだよ馬鹿っ!」
掠めるだけの軽いキス。
返されたのはハグではなくて脳天直下のゲンコツだった。
空のカップをほらと示し、口寂しくてと笑ってみせる。
赤くなった頬と拗ねたような目、引っ手繰るみたいにカップを取った。
二度と変なことすんじゃねーぞ大人しく待ってろ馬鹿。
トゲトゲとした言葉の反面、ふんわり漂う優しい香り。
ほら、とカップを押し付けて、彼は再びキッチンへ。
揺れる水面に目を落とし、ひっそりこっそり小さく笑った。
コーヒーに慣れた鼻と舌には味も香りも薄いけれど。
昔と変わらぬ紅茶を啜り、ほう、と息を吐き出した。
でもまさか絶望的な料理の腕まで変わらずにいるとは思わなかったよ!
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